2016/10/11

ネパール記(6)紅茶を探し求めて500キロ、マイクロバスの旅(下)

 茶畑が周囲一帯に広がる紅茶の一大産地を訪れた僕は、翌朝から早速工場周りをし、その出荷に至るまでのプロセスチェックと、蒸しり立ての茶葉を使用した紅茶のテイスティング。素晴らしい芳香が立ち上がり、僕の鼻腔をくすぐります。


 しかし、そんな貴族的な言葉を発する余裕があるのも最初の数杯だけ。みっちり詰めたスケジュールのなかで、半日を使い、訪問工場数5つ以上、飲んだ紅茶緑茶は約30杯。途中からトイレを行ったり来たり、更に胃は完全に荒れている状態で、軽食すら口にする気力が有りません。


 そして、そろそろ次の隣地に行く時間、今度は別の人間が僕を迎えます。そして今いるパートナーに次の正確な場所を聞いたところ「バスで1時間半」と答えが返ってきました。しかも下記マイクロバスです。強烈な尿意が襲い、且つ胃が極度のまでに荒れている今の僕に、見知らぬ地まで山岳地帯を一人1時間半バスに乗れ、と。


 ネパールでは頻繁にバスの転落事故が起きます。それは標高2,000m近くになると気象の変化が激しく、10分単位で天候が変わり、濃霧による視界不良がその主な原因となります。


 これは以前訪れたネパール北部、チベット手前の「ハイウェイ」ですが、このような視界も、一瞬にして、下記のように一切の視界が遮られます。


 そして不安大的中。僕が今回マイクロバスに乗ったちょうどその時間帯に濃霧が立ち込め、途中から完全に視界不良。更に襲う尿意と荒れる胃の状態。そして道路状態は劣悪。五臓六腑が上下左右に揺れます。小便ぐらいならこのバスのなかで漏らしてやろう、と。


 S字の下り坂、速度を上げるバス、気付けば数メートル先から突然現れてくる対向車。そして、ほぼ毎回接触寸前となり、そのたびに思わず恐怖心から呻き声が出ます、「うっ・・」と。万が一でも接触しようものなら崖から一気に数百メートル転落します。脳裏をちらつく「死」、その恐怖心を解くために、接触事故が起きそうな直前に静かに目を瞑る僕。目を明ける数秒後に何も起きていないことを毎回祈りながら。



 何とか隣の村に着いた僕は変わらぬ景色と茶畑を見ながら、同様、工場巡りを致します。その二日目の夜、遠くから確実に聞こえて来る「重心が低い音」。ホテルスタッフに「ここにダンスクラブがあるのか?」と聞いても帰ってくる答えは「No」。そんなはずはない。紅茶しか取り得のないこの村で絶対に何かが起きている、その第六感を信じ、暗闇のなか音源を辿って行きます。


 突如、屋外クラブが出現。事情は全く分かりません。村の小さな子供まで集まって来ます。


 途中からドンドン若者が集まってき、独自の踊りに興じます。


 更にムードは最高潮に達し、全員踊り狂います。



 ローカル美女も次々と参戦します。


何て日だ、どうなっているんだ、この紅茶の村は。いまいち事態を把握出来ていない僕は、アルコールが入り、殴り合いの喧嘩をし出した若者を見るに危機を察知し、暗闇のなか、ライトを照らしながらホテルに戻ることとなります。


 翌朝、僕の目に映るこの長閑な風景と、昨晩からの状況を理解しようとする脳の神経が結局結ばれないまま、マイクロバスに乗りカトマンズに向かうものの、途中、「カンチェンジュンガ」という印シッキム州に聳え立つヒマラヤ山脈、第三峰の氷河をハッキリと肉眼で見たときに、僕はネパールに来ていることを再度認識するのでした。


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ネパール記目次
(5)紅茶を探し求めて500キロ、マイクロバスの旅(上)
(7)雨季の終わりを告げるダサインと家族の宗教的価値

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