2016/09/10

南アジアにおけるパラダイムシフト、中国の台頭が印パ関係の改善を呼ぶ

 アジア貿易を目的に設立されたイギリス東インド会社が17世紀、香辛料貿易を行うために現在のインドを行政管理し、その後、19世紀にイギリス王室に譲渡される形で誕生したイギリス領インド帝国(以下、「英印」)。その領域はインド、パキスタンのみならず、現在のスリランカ、ネパール、ミャンマーも版図としました。英印は直轄州と500を超える藩王国で構成され、藩王国は山岳地域を中心に民族的、宗教的に独立性のある王国をイギリスが間接的に統治することとなります。英印は1947年にインドとパキスタンの二国に解体され、全ての藩王国は両国のどちらかに帰属しなければならず、その帰属を巡って現在でも争いが起きているのがカシミール。カシミールの藩王国は住民はイスラム教徒が多いかったものの、王様はヒンズー教徒だったため、インドへの帰属することを選択します。

 帰属を巡る争いはインド・パキスタンの二国間で激しいものとなり、「印パ戦争」という形で今尚続く強い「緊張状態」にあり、その一つがバングラデシュ独立問題となります。現在のバングラデシュに該当するベンガル地方のムスリムによって構成された東パキスタンは、西パキスタンからの独立運動が高まったものの、その独立を阻止するべく、パキスタン軍が制圧を開始しました。難民がインドに流入するなかで、インドは東パキスタンの独立運動に介入し、それが1971年、バングラデシュの独立に繋がる「第三次印パ戦争」となります。17世紀におけるイギリス東インド会社の貿易業務、19世紀のイギリス領インド帝国の誕生、1947年の英印解体及びインド・パキスタンへの帰属、そしてこのバングラデシュ独立を受けて、南アジアの地図が固まります。インド、パキスタン、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブ、アフガニスタンの八ヶ国、SAARC(南アジア地域協力連合)と呼ばれる地域経済協力まで誕生し、ASEANの成功を受け、域内統合が進められています。

 しかし、その南アジアにおいて近年、中国のプレゼンスが高まっています。その背景にあるのは「一帯一路」構想。石油含む天然資源が豊富な中東・アフリカへの物流網を南シナ海を経由せずに一気通貫させる国家を上げた壮大なプロジェクト。その拠点をパキスタン、スリランカ等に置き、前者では約5兆円プロジェクトとなる「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」、後者では湾岸開発を中国が一括受注をし、インド洋におけるハブ港への発展を支え、それぞれ政治介入を行っています。ネパールにおいては、チベット鉄道の延伸計画が進んでおり、2020年過ぎには中国~ネパール間が鉄道で接続され、最終的には中国~ネパール~インドの三ヶ国が陸路で結ばれることになります。また直近では中国の国有企業がバングラデシュの鉄道事業を受注し、首都ダッカから西に向かう鉄道網が構築されることになり、最終的にはインドと接続されることになるでしょう。

※「一帯一路」構想図
参照:https://twitter.com/srilankaglobal/status/764644006810775552

 そのような背景下、カシミール地域にも大きな変化が見られています。印パがそれぞれ領土の主張を行う当該地域では英印の解体以降、激しい衝突が今尚続き、両国の核保有にまで至っています。また、カシミールの分離独立を謳うテロリスト組織によるインドの空軍基地侵入により、二国間の和平会談も無期限停止の状況。それが中国の後押しによって近々、再開される可能性が高いと見られています。カシミール地域が中国パキスタン経済回廊の中国側での「入口」となるため、カシミール紛争激化による政情不安と投資の減退がCPECの進捗を妨げ、結果として「一帯一路」構想に大きな影響が出るためです。印パの和平会談をコントロール出来るほどの力を持つ中国は南アジアの経済成長に必要不可欠な存在となり、インドへの強い牽制を幾度となく行っています。

 中国が初めて議長国を務めたG20サミットが幕を閉じました。次の大きなステージは11月、パキスタンがホスト国を務めるSAARC会合と言われており、ブータンを除く全ての構成国が政治的また経済的に中国の影響を受けているなか、会合に臨む印モディ首相。中国、そして経済制裁が解除されたイランもオブザーバー参加します。南アジアにおけるパラダイムシフト、仕掛け人は中国であることは間違いないでしょう。

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