2016/09/22

ネパール記(3)トリブバン国際空港の限界と中国資本による空港戦略

 内陸国であるネパールの経済成長阻害要因として真っ先に挙げられるのは物流面での課題。海上輸送に関してはインドのコルカタで陸揚げされ、約750kmを北上し、タライにあるビルガンジで輸入許可書を取得。更に約150kmを北上し、首都カトマンズに貨物が届けられます。そのための重要な基幹道路となるのが「ネパール記(1)」で説明を行ったマヘンドラ・ハイウェイであり、ビルガンジはその東西1,000kmのハイウェイのちょうど真ん中に位置します。一方、航空輸送については現状、ネパールの首都カトマンズにあるトリブバン国際空港のみ。

周囲を2,500m以上の山々に囲まれるトリブバン国際空港

 標高1,500mに位置するトリブバン国際空港はカトマンズ市街地から約6kmの距離にあり、辺り一面を山に囲まれた小さい空港、且つ、気流の変化が激しく離着陸が最も難しい空港の一つとされています。日本からの直行便はなく、タイ、シンガポール、マレーシア、中国(成都、昆明)等を経由し、6時間から最大20時間以上のトランジットを経てネパール入り。国際的な需要が少ないという理由のみならず、3,000mの滑走路一本且つ離着陸の困難さが伴い、大型ジャンボ機が入っておらず、施設の老朽化による整備と空港拡張の必要性が常に叫ばれています。2015年2月には「日本の空港 アジア進出 成田・三菱商事、ネパールで施設運営 官民で海外勢追う」と日本経済新聞での報道がありましたが、遅々として進んでおらず、市街地にある空港の用地買収が困難であると予想されます。

外から見た空港ターミナル


施設の老朽化が進む空港内設備

 更に深刻なのは航空貨物を取り扱うカーゴターミナルのキャパシティの少なさ。施設規模は1万㎡と成田空港の約1/20、那覇空港の1/6となり、また計画停電もある現況化、十分な冷蔵設備がなく、施設の約95%は常温管理となります。

カーゴターミナル入口

この問題が浮き彫りになったのは昨年ネパールで起きた大地震。税関手続きで救援物資が空港に山積みされていると一部報道がありましたが、世界中から送られてくる救援物資の量に耐えることの出来ないトリブバン国際空港のカーゴ施設がその根本的な原因となり、一方、陸上輸送されるにおいてもビルガンジからカトマンズへのハイウェイは基本的に山岳地帯の細い一本道であり、カトマンズ近郊は常に渋滞が発生、比較的整備されている南部「タライ」にあるマヘンドラ・ハイウェイとは異なり、首都カトマンズに至るまでの海上航空輸送共に致命的な物流面での問題を抱えているネパールとなります。

カーゴターミナル内倉庫(倉庫内は撮影禁止)

 決して打開策がないわけではありません。中国のネパールに対する影響力が近年高まっているなか、チベット鉄道の延伸計画が進んでおり、2020年過ぎには中国~ネパール間が鉄道で接続され、最終的には中国~ネパール~インドの三ヶ国が陸路で結ばれることになります。その過程において、先行して中国資本によるネパール地方空港の国際化へのアップグレードが行われており、第二の都市ポカラ、第三の都市ルンビニで既に工事が着工されております。しかし、それは大幅な航空輸送の環境改善には至らないでしょう。




 そのなかで、今年3月、ネパール政府より、ビルガンジ近郊、「タライ」にあるニジガド(Nijgadh)に新国際空港建設許可が下り、合わせて4月に用地買収が完了しました。4,000mの滑走路が複数並ぶ南アジア最大級の国際空港になる予定となりますが、問題は首都カトマンズから100km以上の距離にあること。しかし、そのニジガドへの路線は地理的条件から「恐らく」中ネを結ぶ鉄道計画に含まれており、合わせてハイウェイ整備も行われる。従って、必然的に中国資本による新国際空港となり、ネパールの空の玄関口のみならず、インドへの物流インフラの拠点にもなるでしょう。ネパールにおいて中国は空港建設も全てその支配下に入れようとしていますが、5年後、10年後は全く違った光景になるのでは、と僕は大きな期待を抱いております。


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ネパール記目次
(2)10年前の経験と10年間の変化
(4)中印が同居するカトマンズ・ナイトライフ

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