CPEC建設計画概要 参照:http://www.siasat.pk/forum/showthread.php?412555-CPEC-Map-and-details |
総投資額(予算)460億ドルのうち、約330億ドルを石炭・火力、水力、太陽光、風力発電等のエネルギー分野に投下資本され、また、今回開通したのは、なかでも治安が比較的良いとされる最東ルートとなり、首都イスラマバードからラホールを経由し、パキスタン最大の都市カラチ近郊を通るものとなります。今後はアフガニスタン国境沿いルートでの建設も進むことになるでしょう。
同時に注目されるのは約60億ドルを鉄道建設計画に当てられていること。2016年12月2日のthe Diplomatの記事"Trans-Himalayan Railroads and Geopolitics in High Asia"によると、ヒマラヤ横断鉄道の計画が検討されており、CPECの一部となる世界で最も標高が高いカラコルム・ハイウェイが開通している地点に併設にされるものとなります。既にパキスタン鉄道がその鉄道路線計画図の発表を行っており、最終的には、先日、中国と英国を結ぶ貨物列車が運行したアジア横断鉄道と新疆ウイグル自治区にて支線化され、中国、南アジア、中央アジア、ユーラシア、欧州と張り巡らされる鉄道網の一部となるでしょう。その他、南アジアでは東西を結ぶインフラとしてBCIM経済回廊(BバングラデシュC中国IインドMミャンマー)とBBIN経済回廊(BバングラデシュBブータンIインドNネパール)の創設が構想されており、後者は巨大経済圏との融合を恐れる人口75万人のブータンが拒否の姿勢を貫いているものの、インドへの水力発電での売電を経済成長の柱としている同国は中国に対抗するインドに説得される形で最終的に協定に締結することになるでしょう。
中印の域内FDI残高比 参照:http://www.cfr.org/economics/economics-influence-china-india-south-asia/p36862 |
1947年の英印の解体及びインド、パキスタンの独立以降、域内では印パを軸にした二項対立のもと、多くの民族・宗教紛争が見られ、長期に渡り、経済開発が着手出来ない状態にありました。一方、中パ経済回廊CPEC構想が持ち上がった2000年代以降、中国は域内構成国に対し、開発ドナーとして、また貿易パートナーとして多くの投資を行い、影響力を高めてきた背景があります。経済的観点では、外国直接投資及び貿易額でその内容を見ることが出来ます。上記グラフは中印の外国直接投資残高比となりますが、残高比ではほぼ均衡するバングラデシュでさえ、貿易額では中国優位の状況になり、南アジアにおけるその高い影響力を伺い知ることが出来ます。
その中国にも不安視していることがあります。総投資額(予算)460億ドルとなるCPEC沿いにおける治安悪化であり、それは特に中国側の入口に当たるカシミール地域、そして出口に当たるバロチスタン州におけるイスラム過激派によるテロ活動や分離独立運動の高まりであり、それは安全保障への脅威のみならず、投資の減退予測が見込まれるものとなります。またバロチスタン州においてはインドがその分離独立運動に手を貸しているとされ、その観点から、パキスタンが牽制する「カシミール」とインドが牽制する「バロチスタン」は中国にとってトレードオフの関係にあります。
CPECルート拡大図 参照:http://www.indiandefencereview.com/news/what-is-china-pakistan-economic-corridor-all-about/ |
また、同州北部最大の部族であるパシュトーン人は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて英国との間で行われたアフガン戦争の結果、その居住地がアフガニスタンとパキスタンの2つに分断され、それは主にパシュトーン人を支持組織とするタリバンのテロ活動温床地域となっています。2016年には州都クエッタにおいて、反政府勢力「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」による連続テロ行為があり、合計数百名の死者に上りました。複数ルートが存在するなかで、CPECが最東ルートを取った理由はこの地域の治安悪化の影響を最小限に留めるためであり、然しながら、グワダル港がある以上、同州の治安正常化は中国・パキスタン両国にとって至上命題になるでしょう。
グワダル港(パキスタン)とチャバハール港(イラン) 参照:https://www.pace.pk/iran-india-chabahar-afghanistan/ |
2050年までにはパキスタンが現在の1億8000万人から倍増の3億5000万人に、インドは12.5億人から16億人に到達し、また、中国を抜いて世界最大の人口となり、同時に、絶対的なエネルギー不足に陥ることが現時点で危惧されています。しかしながら、僅か72kmの距離の差に過ぎないグワダル港とチャバハール港でのアフガニスタン市場アクセスに関する中印対立も中国優勢が伝えられています。その鍵を握っているのはイラン。欧米が経済制裁を課すなか、将来的なエネルギー不足を見込み同国の石油や天然ガス資源の供給ルートに投資を継続してきた結果、いま現在、イランの最大の貿易相手国は中国となっているなか、イランとインドの協定は港湾開発の投資を主としており、相互依存を深めるイランが中国との実利経済を反故にしてまでインドに貿易上、加担する理由を見つけることが困難であるためです。輸出品目の約8割を石油や天然ガスで占めるイランの輸出統計は下記となります。
先日、パキスタン政府が中国が租借しているグワダル港をロシアにも開放する旨の発表を行いました。2001年、中国、ロシア、中央アジアによる国際機関としてスタートした上海協力機構はその後、規模を拡大し、2017年にはインド・パキスタンの加盟が見込まれています。またオブザーバー国となるイランも近い将来加盟することになるでしょう。一方、ロシアと中央アジアの経済同盟であるユーラシア経済連合は、上海協力機構と「大ユーラシア・パートナーシップ」構想を掲げ、その南アジアでの試験的な取り組みをグワダル港の中露共同での港湾開発に置きました。インドが主導してきた南アジアは中国の「一帯一路」構想とロシアのエネルギー政策によって、将来的には中露の枠組みに取り入られることになる形でその経済連合であるSAARCは形骸化していくことになるでしょう。
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